古代人の航海
昨年、考古学の研究者達が葦船で台湾島から西表島に渡る実験を行ったことがある。 実験は黒潮に阻まれて成功しなかったが、それについて疑問に思ったことがある。
それは、南西諸島に古代人が進出した証拠がある3万年から1万年前は氷河時代のさなかで、当然海面は今より遙かに低く気候分布も全く異なっていたはずだ。 中高緯度に大規模な大陸氷河があり、海面も広く氷に覆われていたとすれば、黒潮の流れも今とは大きく異なったはずだ。 偏西風の吹く緯度や強さも違っていただろう。 それを考慮すれば、実験考古学は今の地理的条件や気候的条件だけで考えてはいけない。
つまり、台湾島から南西諸島にどうやって古代人が渡ったかを考える際には、まず当時の地理と気候つまり自然環境の状況から考察しなければならない。 黒潮の流路や流速分布が今とは大きく異なっていたと言う前提で、どのような方法であれば渡航できたのかを考える必要があるのだと私は考える。
付け加えると、布が作れなかった時代に帆走は不可能という考えにも同意できない。 近代まで極東では網代帆も使われていた。 大きな葉を持つ芭蕉のような植物があればそれを編んで竹で挟んだ網代帆は十分に作れたはずだから。 葉を編んで作る網代は、古代人も建物の壁や運搬容器など大小様々な物を使っていただろう。 遺跡から出土しないからと言っても、そのような物が存在しなかった証拠にはならない。
Recent Comments