紫外線を防ぐ色について
紫外線を防ぐ色については、様々な資料やウエブサイトに、どの色が紫外線を何%透過すると言った数字が掲載されているが、比較に使われている数字を鵜呑みにして良いかどうかには大いに疑問がある。
その1は、生地の厚みや密度、さらに繊維の種類によって紫外線の透過率は白生地状態でも大きな差があるのに、それを考慮しているかどうかと言うことだ。薄手の生地と厚手の生地では透過率に大きな差があるからだ(注1)。
注1;大ざっぱに言えば、透過率は厚みの比のべき乗で減少する。つまり透過率が10%(0.1)の場合、厚みが2倍になれば透過率は1%(0.1×0.1=0.01)に、3倍になれば0.1%(0.1×0.1×0.1=0.001)になる。
さらに、一般に紺や黒などの暗色は厚手の生地が使われることが多いので、透過率の差が色の差ではなく生地の厚みによる差である事もあり得る。しかしどの資料やサイトでも、それぞれの色にどのような生地を使って比較したのかについての記述はない。
また、繊維の種類によって紫外部の光吸収性は大きな差がある。繊維を構成する高分子の種類によって紫外線吸収スペクトルが異なるからだ。また、繊維の光沢を押さえて色の深みを増すために酸化チタンなどの微粒子を加えているものもあり、このような添加剤の有無や繊維の表面形状によっても大きく変化する。
さらに、紫外線吸収剤を原料樹脂に練り込んで糸にした紫外線吸収繊維と称するものもあり、このような繊維を使った生地のものとそうでないものが混在していると測定結果に大きく影響する。
その2は、比較した記事の染色濃度(色の濃さ)についてだが、これに関する記述も見た事が無い。実在する生地類では、同じ染料で染めたものでも染色濃度は様々だ。当然ながら、染色濃度が異なれば光の透過率は変化する。従って、どのような濃度で染めた(あるいは見た目の色の濃さ)ものを使ったのかが分からなければ比較のしようが無い。
光による退色のしやすさや色落ち色移りのしやすさを比較するための基準色濃度(見かけの色の濃さ)がJISに定められているのだが、それに関連づけた記述も見た事が無い。
その3は、透過率の測定と算出の方法に関する説明が無いことだ。透過率を紫外部の一点(一波長)で測ったのか、あるいはある波長の範囲で測ったのかの記述もほとんど無い。
また、吸収率で表示されている資料については、透過光で測定したのではなく、繊維の色測定で一般的に用いられる反射光測定装置で測定したのではないかと思われるものもある。ほとんどの資料はこの点が曖昧なままになっているので、異なる資料間では比較して良いものかどうかが分からない。
このように、色による紫外線透過率の比較を論じるのは簡単ではない。そこで簡便法としては、繊維上とは若干異なるが、染料溶液の紫外線透過スペクトルとその染料を使う一般的な染色濃度を基準として議論するのがもっとも分かりやすいと考える。もっとも、生地を統一して、染色濃度もJISの標準濃度に揃えるなど、測定条件を規格化して測定したデータがあれば一番良いのは当然だ。
最後に染料そのものの特性で議論すれば、近紫外線のうち320~380nmの領域の吸収に関しては黄色の染料によく吸収するものが多いのは確かだ。これより短い波長の領域に関しては、繊維自体の吸収が強いし染料間の差も小さい。ただし、アクリル繊維用の黄色染料は紫外線をあまり吸収しないが、これは染料の分子構造上の理由で吸収する波長範囲が狭いためだ。
また、黄色と言っても色合いによって用いられる染料は異なる。一般に紫外線をよく吸収する黄色染料は鮮やかなレモンイエローの色調を持つもので、主に鮮やかなレモンイエローや黄緑(ライムグリーン)に用いられ、時には鮮やかなオレンジ色にも用いる事がある。くすんだ色や中間色には、それに適した染料が他にあるのであまり用いない。
まとめ;
これら全てを踏まえて、紫外線を防ぐ色についての雑駁な結論を言えば、薄手の生地の場合には暑さ対策も含めて黄色が有利だ。しかし、厚手の生地の場合には、生地そのものによる吸収が大きいので色による差はほとんど無いだろう。また、黄色や黒の薄手の生地よりも、紫外線吸収繊維を用いた厚手の白生地の方が紫外線をよく防げる事も十分にあり得る。
« 私はそれを我慢できない | Main | 内閣の真のボスは菅官房長官では? »
Comments