ロング・グッドバイ
NHKで始まっているテレビドラマのタイトルだ。最初に番組欄で見たときは有名なミステリ小説のタイトルをパクったのだろうと思ったが、それを原作として日本を舞台に翻案した物のようだ。
原作はミステリファンなら知らぬ者はいないといえるほど著名なものだ。原題は「The Long Goodby」で邦訳のタイトルは「長いお別れ」だった。レイモンド・チャンドラーの傑作といわれるだけあって、いくつもの印象的な場面がある。
まず、フィリップ・マーロウシリーズ中でもっとも魅力的な女性「リンダ・ローリング」が登場する。そしてCMにも使われた有名な台詞「強くなければ生きて行けない。優しくなければ生きて行く資格がない。」は、リンダ・ローリングの質問「あなたはそんなに強いのに、なぜそんなに優しいの?」に対するフィリップ・マーロウの答えだ。(追記に訂正あり)リンダ・ローリングはシリーズ最終作の「プレイ・バック」の終盤にも登場している。おそらくシリーズの複数作中に登場する唯一の女性で、チャンドラーも気に入っていたのだろう。
また、フィリップ・マーロウの好きなカクテル「ギムレット」もフィリップ・マーロウ・シリーズで有名になり流行した。「長いお別れ」にはその作り方も登場する。ギムレットは私もどんな物かと作ってもらったことがあるが、淡い緑が美しいカクテルだ。付け加えると、日本発祥のカクテル「雪国」はグラスの縁に砂糖をつける以外は見た目がよく似ている。
ドラマの方はちらりと見ただけだが、原作がハリウッドの富裕層社会を舞台にしているだけに、舞台を日本に持ってこようとするとどの時代に設定してもしっくりこない。日本には欧米的な意味でまっとうな社交界(上流社会、ハイソサイエティ)が存在したことがないからかもしれない。このためか、原作の気だるくデカダンな空気を表現するのは難しいようだ。
追記;
久しぶりに原作(ハヤカワ・ミステリ文庫版)を十数年ぶりに引っ張り出して読み返し始めたが、活字が小さいのでなかなか読み進めない。前回は楽に読めたのに。古い文庫本を引っ張り出して読もうとすると、老眼の進行ぶりを思い知らされる。古い岩波文庫や角川文庫はさらに活字が小さいので、拡大鏡なしには全く読めないのでいやになる。
文庫本のそもそもの発祥は、岩波文庫の扉にあるように貧乏学生にも名著が読めるように安い価格で出版する事だった。従って、老眼など考慮せずに小さな活字で詰め込んだのは当然なのだが・・・・。それに比べると最近の文庫本の活字の大きいこと。高齢化社会対応で、老眼でも読みやすいようにと言うわけではないだろうに、優に一冊千円を超える文庫本を見ると考え込んでしまう。
追記(2014/04/28);
これは私の記憶違い。「強くなければ生きて行けない。優しくなければ生きて行けない。」リンダ・ローリングの問いへの答えではなく、「プレイバック」中でのベティ・メイフィールドの問いに対する答えだった。早川ミステリ文庫版初版では下記のようになっている。
「あなたのようにしっかりした男がどうしてそんなに優しくなれるの?」中略「しっかりしていなかったら生きていられない。優しくなれなかったら、生きている資格がない」以下略
出典;ハヤカワ・ミステリ文庫〈HM⑦-3〉昭和52年8月15日発行 P233
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