指揮棒で人が殺せるか?
数少ない新作シリーズのテレビドラマを見ていてふと首をかしげてしまった。なぜならば、指揮棒で背中まで刺し通して殺したという設定だったからだ。
確かに指揮棒の多くは、重心を手元に寄せるため先細りの棒状で、先は直径2mm程度の半球か鈍い円錐形になっている。これで人の胴体を刺せるかと言えば、できないことは無いと思うのだが、背中まで突き通すことは武術の達人でもなければ不可能に近い。指揮棒はきわめて折れやすいからだ。
指揮棒にはいろいろな長さや形状のものがあり状況に応じて使い分けるが、共通しているのは軽いと言うことだ。重ければ指揮者がすぐに疲れるからだ。また棒がしなっては拍の位置が示しにくい。そこで、大半の指揮棒は軽く堅い木で作られている。このため曲げたり強くぶつけたりすると簡単に折れてしまう。私も大学で合唱同好会の学生指揮者をしていたときに、譜面台やデスクにぶつけて何本も折ってしまった。
つまり、武術の達人でもなければ刺すことはできてもすぐに折れてしまい、背中まで突き通すのは不可能に近いと言うことだ。たとえ先端を削って尖らせても、少し刺さった状態で折れて先端が体内に残ってしまうだろう。それでは凶器の謎解きの必要もなく、ミステリドラマとしては身も蓋もなくなってしまうが・・・・・。
ついでに言えば、通常折れた指揮棒の先は鋭い角度に尖るので、この方がむしろ刺しやすい。50cm以上の長い指揮棒を中程で折って使えば、ドラマのように背中まで折れずに突き通せる可能性はあるが、短く加工した指揮棒という説明は無かった。
他に見るに値するようなドラマが少ないのでミステリードラマはよく見るが、トリック以前の環境設定にご都合主義な無理があって、実行の舞台を整えるのは不可能な例がしばしば見受けられる。この点で、新作には内外のミステリーの古典に比べると見劣りするものが多い。日本のミステリー作家には、そのあたりも気を配ってがんばってほしい。
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