想定外をどう想定するべきか?
前項で「想定外は許されないのか?」と書いたが、それを補足したい。
想定外には、許されるべき場合と許されない場合がある。それは災害対策などでは、どこかに対応する限界を定めなければならないからだ。放置すれば、有識者とされる人たちが災害規模を止めどもなくふくらませていく。それに対し、ここまでは想定範囲内として対策を講ずる、ここからは想定外として対策を講じないと言う境界を定め無ければならない。そうしなければ財源がいくらあっても足りなくなり、止めどもない増税をしなければならないからだ。それに、いくら想像をたくましくしてもそれを超える事態はいつでも起こりうる。
例えば、最新の南海地震の予測によれば大阪湾の奥には5m以上の津波が押し寄せる可能性がある。これに対し、大阪市は湾岸には6mの防潮堤があるから危険はないと称している。しかし、防潮堤の高さは平均低潮位を基準にして算出されている。一方、大阪港の大潮の潮位差は2mほどある。つまり平均海水面からの高さは5mしかない。これに対し、津波の高さは海水面の増分である。従って、平均潮位より潮位が高い時には寄せ波の立ち上がりを考慮しなくても津波は防潮堤を越えてしまう。さらに、これに台風その他による高潮が加わると海水面は防潮堤よりも3m以上高くなる可能性がある。
従って、大阪に押し寄せる津波を食い止めるには、寄せ波の立ち上がりや風浪も考慮すれば15m以上もの高さの防潮堤が必要になる。しかしこのような高さの防潮堤を建設するには、防潮堤の厚みが増える分近くの建造物を撤去する必要があり、その経費まで含めると膨大な建設費が必要になる。大阪市以外の大阪湾沿岸全域を含めると所要経費は天文学的になるだろう。つまり、最悪の想定にまともに対応するのはばかげているしできもしないと言うことだ。
それならどうすればよいのか?最悪の想定に正面から対応することはあきらめ、ある程度の被害は容認して様々な手法を組み合わせてやり過ごすことを考えればよい。防潮堤を越える津波による物的被害は仕方がないものとしてあきらめ、人的被害だけを避けることに財源を集中する等だ。漂流物による火災が想定される市街地では、高層ビルを避難所にするほか、既存のビルの地下を水密構造にし、一日程度は水没状態で持ちこたえられる避難所にすると言う手もある。ほかにも少ない経費で人的被害を避ける方法はいくらでもあるだろう。
これが想定外の事態があり得ることを想定して被害を防ぐと言うことだ。
訂正(2012/09/30);
あちこち調べ回って確認したところでは、津波の高さとは基準海面(通常平均干潮位)に対する水位の差であるようだ。そして津波の高さは、満潮時に来襲した場合の最高水位として表示されているように読み取れる。これならば例を挙げた大阪市の6m防潮堤には1mの余裕があることにはなる。
ただし、暴風時の高潮や風浪を考慮すればさらに何mか必要だろうし、寄せ波の立ち上がりが考慮されていないのであればその分も必要になる。津波の予想高さに関する資料で寄せ波の高さを考慮したものかどうか分かるものがなかったので少々気になった。
マーフィーの法則に言う通り、「トラブルは最悪のタイミングで起きる」事が少なくない。災害が重複して起こることも考慮してケーススタディを行ってほしい。主要な港湾地区については、埋め立てに先んじて潮流への影響や汚染水の広がりを調べるための水理模型があるはずだ。これを活用して、寄せ波の立ち上がり高さなどのシミュレーションに使うパラメーターを、三大都市圏(東京湾、伊勢湾、大阪湾)については求めることもできるように思うがどうだろう。
« 想定外は許されないのか? | Main | 日本一を目指す日本人、世界一を目指す韓国人 »
Comments