白いジェット機
2012/06/17放送のNHKスペシャル 宇宙の渚「46億年の旅人 流星」を見ていると、ほぼ全体が白く塗られた翼の長い双発ジェット機が登場した。何と50年以上も昔に開発製造された高々度偵察機U-2だ。
これはソ連の上空に侵入して写真偵察を行う為、ロッキード社が開発したもので、ソ連の戦闘機が到達できない超高々度(3万mとも言われた)で長距離を飛行できる様に設計された。キューバ危機ではソ連が建設していたミサイル基地の偵察に活躍したとも言われるし、後にはソ連上空で撃墜されてパワーズ事件を引き起こしたりした。ソ連はU-2を撃墜する為に、特別に超高々度用の地対空ミサイルを開発したそうだ。
U-2は日本でも藤沢のグライダー用飛行場に不時着して、「黒いジェット機」騒動を引き起こしたことがある。機体全体が光沢のない黒色に塗装されていたからだ。
U-2は今でも沖縄から北朝鮮の偵察に飛んでいるようで、何度かニュースの映像に出てきたことがあるのは見ていた。しかし、この番組の映像のように細部が分かるものは久しぶりに見た。機体のほぼ全体が白く塗られ、エンジンもターボファンに換装されている。翼弦も少し広いように見える。それ以上に驚くのは、この機体が科学研究用に研究機関に貸し出されて利用できると言うことだ。
かつて最高性能の偵察機として軍事偵察に使われた「黒いジェット機」が、今は「白いジェット機」として科学研究にいそしむ。冷戦時代は遙か彼方になったとしみじみ感じた。
追記;
ロッキード社がU-2の次に偵察機として開発したのはSR-71だ。U-2がエンジンを絞って滑空しながら長距離を飛んだのに対し、SR-71はマッハ3で強行偵察を行う事を目的としたものだ。SR-71もまだ現役のようで、時折ニュース映像に登場する。偵察衛星を補う用途があるのだろう。
これらの他、第2次大戦から冷戦時代にかけてP-36、F-104、C-130など個性的な軍用機を開発したロッキード社は、民間航空機分野でボーイング社に敗れて衰退した(注)が、今はロッキード・マーチン社となり宇宙開発関連でがんばっているようだ。
(注)ロッキード社が「トライスター」で民間分野での生き残りをかけていた時期に発生したのが、「田中角栄2億円事件(ロッキード事件)」で、これが露見して田中氏は政界からの引退に追い込まれた。小沢氏は、その頃既に田中角栄氏の懐刀と言われていたので、このヤミ献金事件にも実務者として関係していた可能性が高い。
追記(2016/12/17);
コメントでご指摘戴いた点の本文訂正を忘れていました。
この機体はご指摘の通りU-2ではなく、英国のイングリッシュ・エレクトリック社製双発ジェット爆撃機キャンベラの米国版B-57の気象観測型であるWB-57です。その姿に見覚えがあったのでU-2と混同してしまいました。
高高度飛行用に各翼を拡大したりしているので、オリジナルのB-57やキャンベラとはかなり姿が変わっています。
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U-2の翼端は、下に直角に折れ曲がって着陸用のそり(摺り板)になっていましたね。(下側だけの翼端板の下端が橇になっていたとも言えますが。)
Posted by: 馬納戸昇 | August 16, 2012 09:03 PM
これは、U-2でもU-2のNASA版のER-2でもありません。
NASAはER-2以外にも高高度観測ができる機体を保有していて、WB-57というものです。
U-2/ER-2は単発、単座に対して
WB-57は、双発、複座です。
高高度を飛行することから、形は似たものになっていますが、異なる飛行機です。
U-2/ER-2の驚くべきところは、高高度と飛ぶことに徹したため、車輪は自転車の様に縦に並んでいるだけで、翼についているのは、自転車の補助輪の様なもので、離陸時に外れてしまいます。 前後の車輪だけで着陸するので、最後は翼が滑走路に接触するそうです。
Posted by: Katsu | August 16, 2012 10:07 AM