年功序列と成果主義
民間大企業における昇任人事が、年功序列から成果主義に変わったと言われるのはなぜか?それには大学全入と言われるほど大学が増え、企業が大卒しか採用できなくなった事と密接につながっている。それについて述べたい
戦前から戦後間もないころまでは、大学を卒業できたのは富裕層子弟か苦学生に限られており、学士の上級職員(キャリヤ)としての資質はある程度保証されていた。また、人数も少なかったので彼らを処遇するためのポストに困ることも無かった。仮に縁故採用などで資質に問題があっても、企業全体の人員に対する比率が低いので、それなりのポストで飼い殺しにしておいても負担にはならなかった。また、紹介者に引き取ってもらう手段もあった。
しかし、戦後のベビーブーマーの激しい受験戦争を見た教育関係者から、受験勉強で入学前にすり減ってしまうような現状は宜しくないと言う意見がでて、大学の定員増や学部学科さらには大学自体の設置基準が緩和された。この結果大学の受け入れ可能人数は大幅に拡大した。一方で、国民全体の所得向上によって、子供を大学に進学させる親が増え、ついには大学に進学させるのが当たり前の時代になった。結果として、企業はこれまで下級社員(いわゆる一般職)用として採用していた、高卒以下の低学歴者を採用しにくくなり、下級職要員も大卒で充当しなければならなくなった。
しかし、大卒採用でも下級職で終わることがあり得ると始めから公言しては、良質の志願者を集める上で都合が悪い。そこで採用した大卒者を入社後に何らかの基準でふるい分ける事にした。そこで持ち出されたのが成果主義だ。
年功序列の時代でも、最下級の管理職に昇進した後は厳しい選別が行われたのは変わりがない。仕事の指揮能力や忠誠心などに基づいて、各昇任段階ごとに選別が行われた。しかしその時代には、人材を充当すべきポストの数が候補者に対して多かったため、各段階でふるい落とされる割合は少なかったのだ。そしてふるい落とされた者は「肩たたき」の対象となり、会社を去る仕組みになっていた。
しかし、ほとんどが大卒採用の時代になると、ポストの数に対する候補者の過剰度が大きい。そのため、ふるい落とされる者の不満を封じるために、何か公平に見える選別方法が必要になる。そのためには成果主義が好都合だったのだ。そして、成果を比較するために様々な数値化手法が求められた。1990年代から流行し、大企業各社が競って成果の数値評価法を導入したのはそのためだった。
しかしながら、数値評価法にも作為的な差別は可能だ。そもそも数値評価にそぐわない、良い数値が出しにくい職務がある。昇進させたくない者をこのような職務につけ、昇進させたい者を高い数値を出しやすい職務につけると言う方法で昇進差別は可能だ。トップからの支持で、このようなえこひいきが行われることも現実にある。この為、高い数値評価が得られない者たちが、故意に低評価しか出ない職務につけられているのではないか、などという疑念からモラルが低下する例もある様だ。
モラルを維持する上で、昇進は給与と並んで最重要な項目だ。その見地から、努力比も関わらず華やかな成果に恵まれない者にもそれなりの評価をすることが必要だという認識は企業側にもある。そこで、高いモラルを維持するために、給与、そして年功昇進と成果昇進をどのように組み合わせれば良いのかは企業にとって重要な研究課題になっている。ただ、長い間成果主義がファッションになっていたために、それは表に出にくかったのだ。
いずれにしても、昇進評価がどちらかに偏りすぎれば従業員の意欲が低下する。成果と長年の努力との両方を勘案した考課と昇進が、モラルを維持し職務効率を上げるためには不可欠だ。
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