「き」か「なま」か
「生」という字には様々な読み方がある。そのためか、最近のアナウンサーやいわゆる「タレント」には「斬新」な読み方をするものが多い。言葉のプロではない「タレント」が無知で間違うのは多少は容認するとしても、言葉のプロであるアナウンサーが間違えるのは恥ずかしい限りだ。最近は各局ともアナウンサーに対してまともな教育を行っていないのだろうと思ってしまう。
本稿で取り上げた「生」には、「せい」、「しょう」、「なま」、「き」、「いき」、「いけ」など多数の読みがあるがそれぞれに意味が異なっている。
「せい」には二つの使われ方がある。一つは「人」を意味していて「先生(せんせい)」、「後生(こうせい)」、「学生(がくせい)」、「書生(しょせい)」などの例があげられる。もう一つは「命」または「命がある(あるいは生きている)状態」を意味している。この例は「生命(せいめい)」、「生活(せいかつ)」、「人生(じんせい)」「共生(きょうせい)」、「寄生(きせい)」、「生物(せいぶつ)」、「生花(せいか)」などだ。
「しょう」もまた「命」または「命がある状態」を意味している。この例は「一生(いっしょう)」、「後生(ごしょう)」、「生涯(しょうがい)」、「殺生(せっしょう)」、「生類(しょうるい)」などだ。「実生(みしょう)」は最近は「じつせい」と読むことも多いようだ。
音読みの「せい」、「しょう」は主に漢語由来の熟語などに用いられるが、訓読みの「なま」、「き」、「いき」などは主に漢語に由来しない単語に用いられる。
「なま」は「生魚(なまうお、なまざかな)」、「生卵(なまたまご)」など、未加工あるいは未調理の素材そのままの状態であることを示す場合に用いられる。また、洗練されずむき出しの状態を示す場合にも用いられる。「生々しい(なまなましい)」、「生半可(なまはんか)」、「生意気(なまいき)」などがこれにあたる。近年使われ出した「生足(なまあし)」もこの部類だろう。さらにまた、「生放送(なまほうそう)」、「生中継(なまちゅうけい)」、「生テープ(なまてーぷ)」などのように、入手したまま手を加えていない状態でと言う意味でももちいられる。
「き」もまた未加工のあるいは素材のままの意味で用いられるが、混ぜ物を含まない純粋なと言う意味でも用いられる。「生糸(きいと)」、「生成り(きなり)」、「生娘(きむすめ)」は前者の例であり、「生一本(きいっぽん)」、「生そば(きそば)」などは後者の例である。
「いき」は「しょう」と同じく、「生き物(いきもの)」、「生き生き(いきいき)」、「生き馬(いきうま)」、「生き霊(いきりょう)」など、命がある状態、生きているなどの意味で用いられる。「いけ」もほぼ同じ意味で、口調で使い分けられているように思えるが、「いけ」の場合は「生かしている」、「生きた状態を保っている」などと言うニュアンスが強い気がする。「いき」は自動詞的で、「いけ」は他動詞的といってもよいかもしれない。「生け花(いけばな、活け花)」、「生け簀(いけす)」などが後者の例だ。
昔の放送局は、このような意味と読み方やアクセントの違いを徹底的に教えると聞いていたが、いまはもうそんな指導はしないのかもしれない。
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