櫻井よしこ氏語る;鳩山首相は戦後教育の失敗例
鳩山氏が失敗例としても、櫻井氏自身も昭和40年頃まで続いた戦後教育の産物だ。ご自分は成功例のおつもりかな?
いわゆる戦後教育は戦前のファシズムに対する反省から、「付和雷同せず、自分自身で判断できる」者を育成する事を目的に組み立てられていた。しかし、反安保運動や学生運動に手を焼いた保守勢力が、権威(特に国家)に忠実な者を育成しようと舵を切り替えて、脱戦後教育が始まった。そこに「先進的」と称する教育専門家達が便乗し、子供を競わせるのは可哀想だからと、極端な無競争・平等教育を導入した。そして、いわゆる「ゆとり教育」はその延長上にある。
従って、40代の半ば以上の世代は戦後教育の流れの中で育っている。櫻井氏も当然その中で育ったはずだ。ご自分は失敗作ではないとお考えのようなので、それならば櫻井よしこ氏は戦後教育の成功例なのだろう。
追記(2010/05/16);
昭和40年頃に東京都知事だった美濃部亮吉(注)と都教育委員長だった小尾虎雄のコンビが推し進めて昭和45年頃から導入した、都立高校の学校群制度などは脱戦後教育のさきがけだ。彼らは、学校間格差が平等の原則に反し受験戦争の原因であると主張し、学校間格差を無くし、平等な教育を受けられる「合理的な制度」にするとしたのだ。その結果、学力が低い生徒は「落ちこぼされ」、学力が高い生徒は強制的に平均値に合わせようとする都立校の教育を嫌い、私立有名校を目指すようになった。
これはちょうど、労働組合がそれまでの闘争路線から共存路線へと舵を切り替えた時期と重なる。それとともに日教組も力が低下し、自民党お気に入りの「先進的」教育学者達が勢力を伸ばし始めた時期でもある。
その一方で、自民党政府は大学の自由主義的教育環境が反政府活動の温床だとして、文部省による介入がしやすいように大学制度を代えようとした。これが大学生や大学教員の反発を呼び、時の反ベトナム・反米戦運動と重なって大規模な学生運動に発展した。
その後学生運動は暴力化して、セクト間のいわゆる「内ゲバ」が横行し始めたため、学生達の支持を失った。しかし、自民党政府は学生運動の背景が自主性を重視する戦後教育が原因だとして、権力に従順で自主性を持たない子供を作る為の教育制度改革を進めた。その中には当然、権力に従順な教員を養成する事も含まれていた。その結果教員志望者の学力レベルが低下し、一時期は「でもしか教師」(民間企業や公務員に就職できないので、「教員でもするか」あるいは「教員にしかなれない」)と揶揄された程だ。そして、教員もただの職業の一つと見る者たちの増加によって、教員達の心理もサラリーマン化していった。
このような教員のサラリーマン化により指導力が低下し、教科内容を個々の生徒の成長段階を航路して丁寧に指導する事ができなくなり、生徒の学力は当然低下した。それはまた、「進歩的教育学者」達によって教科内容が多すぎるからだとされ、ゆとりを持たせる為に教科内容をさらに削減する「ゆとり教育」へとつながっていった。
またこれとは別の流れとして、昭和40年頃から「受験戦争」は可哀想だからとして、高校・大学全入運動が始まった。これにより大学や高校の設置基準が次第にゆるめられ、全国に乱立する事につながった。その一方で、全入を確保するために生徒に志望校を選ばせないという進路指導も広まった。
そして、「可哀想」の対象が次第に広がり、「運動会の徒競走などで順位をつけるのは負けた子が可哀想だから良くない」、「5段階評価は勉強のできない子が可哀想だから良くない」、さらには「テストやドリルも高い点が取れない子供が可哀想だから良くない」などとして廃止するのが流行になった。
それやこれやの結果、教育内容は大幅に削られ今の「ゆとり教育」になった。またその一方で、教員管理強化のため細々とした報告を多数求めるようになったので、教員の「ゆとり」は削り取られていったようだ。これは知人の精神科医から「教育委員会に提出する報告が多くて授業の準備が十分にできない」と訴える教員が多いと聞いたので、たぶん実際にあることなのだろう。
いずれにしても、「戦後教育」に対する「戦前回帰派」の不満が教育学界の勢力争いに利用され、教育全体がおかしな方向にねじ曲げられていったようには思う。
(注)美濃部亮吉氏は、「天皇機関説」で知られた憲法学者の美濃部達吉氏の息子である。公営ギャンブル廃止、庶民生活向上などを唱え、女性的な語り口と父親との混同もあって女性の圧倒的支持を受けて当選した。
当選後、都営の競輪と競艇は全て廃止され地方競馬も縮小された。夫のギャンブル癖に悩む妻達は大いに喜んだが、廃止によって多くの従業員が職を失った。「はしれコータロー」で氏の性格が皮肉たっぷりに歌われている。
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