書籍;歴史は「べき乗則」で動く
世界では自然災害や戦争、株の暴落などの事件が起きている。本書はそれがなぜ想定外に起き予測できないのか、発生の周期性はあるのかなどを「複雑系の数学」を用いて平易に説明している。本来は数学の入門書だが、ここ数年の政治経済情勢を理解する上での重要な示唆が含まれているので、政治家、経営者、政治・経済の評論家やアナリストたちにも是非読んでもらいたい。
タイトルは何のことかと思うが、内容は歴史的な様々な大事件、たとえば恐竜の絶滅、世界大戦や大恐慌、大地震などが特異な原因無しに起こりうること、そして固有の周期がないことなどを例をあげて説明している。そして、その結果、次にどのようなことが起きるのかについて実用性がある予測や予防策を講ずるのは困難であり、予防のためにとった手段がかえって事態を悪化させる場合もあると述べている。また、専門家の予測は当たらないことが多く、なぜ外れるのかの説明もおこなっている。
本書では、事例の原因や具体的な防止策などには全く触れていない。本書の重要なメッセージは、恐竜の絶滅や世界大戦などの重大な事件や変化は特別の原因がなくても起こりうること、そして次にいつどのような規模の事件や変化が起きるかは予測不能であること、そして最善の対策と思って行ったことが事態をさらに悪化させることもあり得るという事だ。
特に政治家やマスメディア関係者には、政治的な大事件は特定の人物だけが原因ではなく、その背後で時代の空気とでも言う物が原動力になっていること、そしてたまたまその時代に居合わせそれを上手く利用した物がその結果により、英雄にされたり元凶にされたりするのだという主張は深く心にとめてほしい。
特に今、日本人を含めて空気を読んでそれに同調するという傾向が強くなっている。これは著者の言う臨界状態にきわめて接近していることを意味しているのかもしれない。このような心理はいつでも全体主義や国粋主義に変化しうるものだ。群集心理は常に微妙な釣り合いの上にあり、いつでも暴走する可能性がある。これは特に政治家とマスメディア関係者には重要だ。あなたの一言が世界大戦を招くかもしれない。たとえそれが政治に関することではなくてもだ。
よかれと思って何かをする際にも、その行為の悪い影響(これは必ずある)についてもじっくり考慮し、悪い影響が現れた場合の心構えを持って実行すべきだ。これは国家の指導者だけではなく、一人一人の庶民についても言える。砂の一粒の動きが砂山全体の大崩壊を招くこともあるのだから。
書名;歴史は「べき乗則で動く」 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学
ハヤカワ文庫NF
著者、マーク・ブキャナン 水谷淳訳
追記;阪神大震災に触れたくだりでは、震源に関しておやと思う記述がある。しかし、欧米人にとっては日本列島は太平上の島国で、瀬戸内海も太平洋の一部という事なのだろう。
ISBN978-4-15-050358-1 C0140
追記2(2009/10/04);
社会現象については、市場の暴落や流行に関する考え方(P221~)、伝染病の世界的大流行を阻止できない理由(P245~)など参考にすべき記述がある。
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