日米とも景気の底打ちが伝えられるようになってきたが、これは景気の悪化が止まり始めたというだけで、景気の回復を意味するものではない。景気が上向くにはまだしばらくかかるだろう。ただ、景気が上向き始めてもそれは一般庶民には実感がないだろう。なぜならば、それが雇用無き景気回復になるからだ。
90年代のバブル崩壊以後、日本の景気回復には長い年月がかかった。そして、景気回復したと政府や日銀が主張しても、庶民には実感がなかった。それはそれが雇用無き景気回復だったからだ。あの時期、企業業績は改善されても、給与は上がらず、雇用も増えなかったのだ。
企業は物言う株主たちの歓心を得て株価を引き上げるため、経費削減に努力して配当を増加しようとした。そのための一番手軽で効果が大きかったのが、人員削減と給与の引き下げだった。この為正社員は減らされ、いつでも手軽に解雇できる派遣社員の利用が増えた。派遣社員は解雇(解約だが)するのに組合との交渉も要らず、解雇予告も不要で、人手の増減が簡単にでき単価も安いという事でもてはやされ、使用できる業種も増やされた。元々は要請に弾がかかる専門技術者を常雇いにせずに、必要なときにだけ使えるようにするという建前だったが、最近では非熟練労働者の調節が主目的になっているのはご存じの通りだ。
その結果、企業の経営は非熟練の派遣労働者が使えるという前提で行われ、労務担当者や経営者は派遣労働者を使わずにどう経営すればよいのかを忘れてしまっている。さらに、業績が回復しても配当を増やさずに正社員を増やせば、「物言う株主」は経営者を非難し退任させようとするだろう。だから、景気が回復しても雇用は増えない事になるのだ。
このような理由から、日米とも景気が回復し始めても、それは雇用無き景気回復になるだろう。そして雇用が増えず給与も上がらないため、一般労働者の消費意欲は増えないことになる。その結果、景気回復の底が浅く持続力のある回復は望めない。そして、銀行は貸付先が増えないため、再び投機ファンドへの貸し付けを増やし、バブルが再発するだろう。
このようにして、当分の間世界経済は短期間でバブルとバブル崩壊を繰り返し、その都度雇用が減少するため、経済全体の柔軟性や体力は次第に低下する。それを回避するためには、いわゆる物言う株主である投機ファンドの活動を制限し、ファンドの利益よりも一般労働者の雇用や給与を優先するようにしなければならない。
また、老後のための資金を投機によって得させようとする確定拠出年金は、単に投機資金を増やすための手段でしかないと知るべきだ。利下げもまた投機を助長する。政府や政治家は、投機よりも物的消費を伴う事業分野への投資が有利になるような状況を作らなくてはいけない。
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